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【常識で解く企業経営理論】令和4年度 第29問:価格

 価格に関する中小企業診断士試験・過去問での設問について、専門用語(用語の解説を参照)を知らなくても常識に基づいて解説します。

目次

企業経営理論 令和4年度 第29問

 次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。

 T社が製造し販売する製品は、プライベートでもオフィスでも着ることができるカジュアルな衣料ブランドとして、ターゲットである 20 代~30 代前半の女性を中心に人気を集めている。しかし、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、人々のプライベートでの外出機会が減り、同時に勤務形態にもリモートワークが普及したため、T社では①消費者が同社製品に対して感じる価値やその価格の意味について、改めて調査を行う必要を感じている。同社では、このような調査を通じて当該製品の②価格について見直す必要があるかもしれないと考えていた。

(設問 1 )

文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 同じ製品でも、その製造プロセスなどに消費者を巻き込んでいくことを通じて、より高い価値を感じてもらうことが可能である。この場合、結果としてより高い価格で買ってもらうこと以外に、価格を据え置くことによって、より高い顧客満足を感じてもらうという選択肢もある。
イ 消費者が価格に対して感じる意味とは「支出の痛み」であるから、価格が下がれば支出の痛みは和らぎ、価格が上がれば支出の痛みは強くなる。このため日用品の分野では、通常は価格を上げれば売り上げは低下する。このような財は「ギッフェン財」と呼ばれる。
ウ 消費者が製品が提供する価値に対して支払ってもよいと感じる価格は状況によって異なることがあるが、一物一価の原則により、同一製品に異なる価格をつけることは禁止されている。
エ 消費者が製品の品質を判断するために用いる情報はブランドではなく価格である。このため、どのような価格を設定するかは、消費者の品質判断に強い影響を及ぼす。
オ プレステージ性が高いラグジュアリー・ブランドでは、価格が上がることによって、より高い価値を感じる消費者もいる。この理由は、プロスペクト理論によって説明することができる。

(設問 2 )

文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 企業が製品につける価格を通じて消費者にメッセージを送ることを、価格シグナリングと呼ぶ。例えば、実際には低品質なのに高価格をつけることにより高品質であるように見せることは価格シグナリングに含まれるが、製品にセール価格をつけることは価格シグナリングではない。
イ 消費者が特定の製品に関して感じる価格幅の中間値を留保価格と呼び、企業は自社のそれぞれの製品の留保価格を考慮して実際の価格を設定することが望ましい。
ウ 浸透価格とは、一般的には一気に市場シェアを獲得するためにつけられる低価格を指し、市場シェアを獲得するためには、慢性的に赤字を出すほどの低価格をつける。
エ 別々の製品をセットにして、個々の製品の合計価格より安く販売する価格アンバンドリングでは、セットで販売される製品の間に互換性があるほど、消費者のお買い得感が増す。
オ 本体と消耗品を組み合わせて使用する製品で、本体を低価格で、消耗品を高価格で販売することをキャプティブ・プライシングと呼ぶ。本体を低価格で販売することによる赤字を回収するためとはいえ、消耗品の価格を高く設定しすぎることは通常避ける必要がある。

正解

(設問 1 )
  ア

(設問2)
  オ

解説

(設問1)

ア 製造プロセスなどに消費者を巻き込んでいくことによって、関心を持ち、価値を感じてもらうことは可能です。価値を感じた製品は高価格であっても買ってもらうことも可能ですが、さらに価格を据え置いて顧客満足を感じてもらうことも選択肢の一つであり、この記述は最も適切です。

イ 日用品では、価格が上がれば売り上げは低下することは正しいのですが、価格に対して感じる意味は「支出の痛み」だけではなく品質なども挙げられるので、「ギッフェン財」(以下を参照)の意味を知らなくても、この記述が不適切であるとわかります。

ウ 一物一価の原則は完全な自由経済において成り立つものであって、現在は完全競争が崩れている状態なので、一物一価の原則が成立していない場合が多いといえます。同一商品でも店によって価格が異なることはよくあることで、禁止されているわけではないので、この選択肢は不適切です。

エ 品質は顧客のニーズに合っているかを決める特性なので、ブランドも価格も判断材料になるといえます。よって不適切な記述です。

オ 選択肢前段は正しいのですが、その理由が「プロスペクト理論」によって説明できるという記述が誤っています。ただ、この選択肢は「プロスペクト理論」(以下の解説を参照)がわからないと判断できないと思われます。

この設問では、選択肢イ、ウ、エは上記のとおり不適切であることは明白です。残りのアとオのどちらが正しいかの2択ということになります。

オは、「プロスペクト理論」がわからなければ、同理論で説明できるか否か迷うところですが、アは「~可能である」「選択肢もある」という広範囲に解釈できる表現は、適切な場合が多いので参考にしてください。

(設問2)

ア シグナルは、信号や合図ということから類推すると、企業が製品につける価格を通じて消費者にメッセージ(≒シグナル)を送ることであることは正しいと判断できる。実際には低品質なのに高価格によって高品質に見せかけることは、価格のメッセージという点で正しい。また、〇〇%オフなどセール価格をつけることも消費者に品質の割に安いというメッセージを送っていることから価格シグナルであるといえます。よってこの記述は不適切です。

イ 留保価格の意味(用語解説を参照)を知らなければ、判断しにくい記述です。しかし、企業は自社製品に対して、いくらなら払ってもらえるか(上限)を考慮して価格を設定するのが利益を生む上で望ましいと考えられるので、留保価格の正誤を無視して考えると、中間値を考慮することが望ましいという記述は不適切だと判断できます。

ウ 浸透価格は、名称のとおり市場に自社製品を浸透させるための価格戦略だと考えれば、前段は正しい記述といえます。しかし、赤字を出しては商売が成り立たないのは明白です。よってこの記述は不適切です。

エ 価格アンバンドリング(用語解説を参照)の正否がわからなくても、別々の製品をセット販売されているのに互換性がある必要がないのでこの記述は不適切だと判断できます。

オ 前半の記述がキャプティブ・プライシング(用語の解説参照)というか否かは、常識だけでは判断できません。
 後半の記述について、本体を低価格で販売しておき、買い替えが必要な消耗品を高価格で販売することにより、収益を得る手法であれば、消耗品価格をあまり高く設定しすぎると継続して購入してもらえなくなる可能性があるので、それは通常避ける必要があるという記述は正しいといえます。他の選択肢が不適切と判断できれば、オの記述は最も適切だろうと想定できます。

用語の解説

(設問1)

【価格に感じる意味】
 消費者が価格に感じる意味としては、「支出の痛み(犠牲)」、「品質」、「プレステージ(威信、高評価なブランドなど)」の3つが挙げられます。

【ギッフェン財】
 価格が上がってるのに消費量が増加する財、または価格が下がっているのに消費量が減少する財のことです。

【プレスペクト理論】
 消費者は、製品等の価格に対して自分なりの期待値を持ちます。それより安ければ「利益」と感じ、高ければ「損失」と感じます。ところが、「利益」から得られる満足より、同額の「損失」から得られる苦痛の方が大きく感じるために、「損失」を「利益」より大きく評価し、損失を回避しようとします。このような心理現象などをプレスペクト理論といいます。

(設問2)

【価格シグナル】
 製品購入の際、品質の良し悪しの判断が付かないとき価格で判断してしまうことです。

【留保価格】
 商品に対して買い手が払ってもよいと考える価格の上限、売り手が売ってもよいと考える価格の下限です。

【浸透価格】
 大量生産でコストを削減し、低価格で一気に市場浸透を図り、マーケットシェアを獲得するための価格戦略です。

【価格バンドリングと価格アンバンドリング】
設問の記述の「別々の製品をセットにして、個々の製品の合計価格より安く販売する」ことはバンドリングの説明です。
 一方、購買者のニーズに合わせて商品内容を組み合わせて販売することをアンバンドリングといいます。

【キャプティブ・プライシング】
 設問の記述のとおり、キャプティブ・プライシングとは「本体と消耗品を組み合わせて使用する製品で、本体を低価格で、消耗品を高価格で販売すること」です。例えば、「カミソリ本体と替刃」や「コーヒーメーカとカプセル」などが挙げられます。ジレットは、キャンペーンとして、街頭でアンケートをした後、カミソリ本体を無料で配っていることもありました。

他の設問

他の設問は以下をご覧ください。

中小企業診断士試験 常識で解く企業経営理論 過去問

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