ファミリービジネスにおける経路依存性、グループ・シンク及び組織文化に関する中小企業診断士試験・過去問での設問について、常識に基づいて解説します。
企業経営理論 令和2年度 第10問
次の文章を読んで、問題に答えよ。
老舗と呼ばれる中小企業Z社は、重代で受け継ぐ製法による生産品を中心に事業を営むファミリービジネスである。創業以来の価値観や行動規範を重視して独自の組織文化を形成し、50%を超える株式を保有する創業家出身の四代目社長と、創業者一族が中心となって従業員との一体感を重視している。二代目社長の代からは、新しい品目や製造プロセスの改良に関して外部から技術を導入してきた。①歴史的経緯で外部から導入した製造プロセスの改良技術に基づき、技術関係部門同士の連携による問題解決は定型化されて続いている。
創業以来、危機的状況を何度も乗り切ってきたが、近年、過去にZ社を危機から救った伝統的な事業戦略が機能しなくなった。②創業以来の企業の価値観は、現在も社員の間で共有されているが、伝統的な価値観に基づく戦略による過去の成功が現在の戦略を機能させていない根本的原因となっていることを誰も認めようとはしない。
経営の意思決定は、創業家出身の社長を中心として行われてきた。最近、③役員や生え抜きの部門長と違和感なく全員一致で戦略的に意思決定したが、建設的なアイデアや現実的な解決策は顧みられなかった。
Z社に関する下線部①~③の記述と、それらを説明する以下のa~cの語句の組 み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
a 経路依存性
b グループ・シンク
c 組織文化の逆機能
〔解答群〕
ア ①-a ②-b ③-c
イ ①-a ②-c ③-b
ウ ①-b ②-a ③-c
エ ①-b ②-c ③-a
オ ①-c ②-a ③-b
正解
イ
解説
最も判断がつきやすいのは、下線部② 「創業以来の価値観(→組織文化) ~ 誰も認めようとしない(→逆機能)」から、②-cです。
下線部③の「全会一致で~意思決定」という文言から③-bだろうと想像できます。
この下線部②と③がわかれば、下線部①は、「歴史的経緯で ~ 定型化されて」から経路依存性ということなのかなと予想されます。少なくともグループ・シンクではなさそうです。ただ、歴史的経緯という言葉で組織文化かなと迷いますが、逆機能に当てはまる語句がないので、①-cではないだろうと考えます。
用語の解説
経路依存性とは、過去の経緯や歴史によって決められた制度や仕組みにしばられることをいいます。
グループ・シンクとは、集団思考、集団浅慮ともいいます。集団での意思決定が、個人が行う意思決定よりも非合理な結論になる傾向のことです。集団思考(groupthink)については、令和3年第18問でも出題されています。
組織文化とは、事業目的を達成するため、経営されている組織において構成員間で共有された行動原理や思考様式のことです。組織文化の逆機能とは、組織の構成員の行動や思考のパターンが画一化することにより、新たな行動や思考が生じなくなり、多様性を喪失するといった組織文化による逆の効果のことをいいます。