マーケティング・コンセプトに関する 中小企業診断士試験・過去問での 設問について、常識に基づいて解説します。
企業経営理論 令和2年度 第29問
中小企業のX社では、同社が数年間にわたって取り組んできた、温室効果ガスを一切排出しない新しい小型電動バイクの開発が、最終段階を迎えていた。同社では、この新製品を①小型バイク市場または電動アシスト自転車市場等のどのようなセグメントに向けて発売するかについて検討を重ねていた。同時に、②これらの市場においてどのような価格で販売するのがよいかについても、そろそろ決定する必要があった。
(設問 1 ) 文中の下線部①に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 小型電動バイクと従来型のバイクとの主な差異は、エンジンの構造などの機能面に限定されるから、小型電動バイクにはライフスタイルに基づくセグメントは適さない。
イ 小型電動バイクの走行性能は従来型のバイクに比較して多くの面で劣 るため、ベネフィットによるセグメントを検討することは、この製品にとって不利であり、適切ではない。
ウ 従来型バイクのユーザーのパーソナリティに関する調査を実施した結 果、保守的で権威主義的なユーザーは従来型のバイクを強く好むことが分かったため、これらのユーザーを小型電動バイクのターゲットから除外した。
エ 調査を実施した結果、「保育園に子供を連れて行くための静かで小型の 乗り物」を求める消費者の存在が明らかになった。セグメントはより細分化することが必要なので、X社では保育園の規模、子供を連れていく時間帯などの変数を用いて、このセグメントをさらに細分化した上で、ターゲットを選定することにした。
(設問 2 ) 文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。 ア X社は、小型電動バイクの開発に要した数年にわたる多大な費用を早期
に回収するため、初期価格を高く設定すると同時に多額の広告費を集中投入して、短期間に市場から利益を得る市場浸透価格戦略を採用することにした。
イ X社は、小型電動バイクの発売に当たり、性能の差により下からA、B、 C、Dの 4 モデルを検討していた。モデル間の性能差は実際には大きくないが、消費者に最上位モデルであるDの品質をより高く知覚してもらうため、モデルAからCまでは小刻みの価格差、CとDの間にはやや大きめの価格差を設定した。
ウ あらかじめプロトタイプのテストを繰り返し、最終的に販売を想定した製品のコストに基づいて価格を決める「ターゲット・コスティング」の方法で価格を設定した。
エ 小型バイク市場では、非常に多くの競合企業間で激しい競争が展開されているため、売り手であるX社だけでなく、買い手である多くのユーザーも市場価格に対する極めて大きな影響力をもつ。
オ ユーザーが製品やサービスのベネフィットに対して支払ってもよいと考える対価をベースに設定されるさまざまな価格設定方法を、一般にコストベース価格設定と呼ぶ。
正解
(設問1) ウ
(設問2) イ
解説
(設問1)
アの選択肢を見てみましょう。小型電動バイクは、近場にちょっと乗るのに便利なバイクなので、選択肢エのような「子供を連れていく」や買い物に行くなどの用途に適しており、ライフスタイルに基づくセグメントに適すると考えられるので、アは不適切とわかります。
イでは、小型電動バイクは、走行性能が従来型に比べて劣っても、利用者のベネフィット(利益)を検討することは製品にとって大事だと想像できるので、イも不適切です。
エは、セグメントの細分化の必要性について述べています。保育園の規模や子供を連れていく時間帯などによって小型バイクの車種を変えるというのは、不合理です。そんなことよりデザインや乗りやすさなどを追及する方が重要ですよね。よって、エも不適切です。
そしてウですが、保守的で権威主義的なユーザーに限定して記載されています。このような嗜好のユーザーは小型電動バイクのターゲットにする必要はないので、最も適切な記述と判断できます。
(設問2)
アに記載の「市場浸透価格戦略」は、字面から類推すると、市場に浸透させる価格を設定する戦略ということは、低価格でないと市場にはなかなか浸透しないことを考えると、初期価格を高く設定するという記述と矛盾します。よって不適切といえます。
イでの品質を高く認識してもらうには、高価格に設定することが有効と想像できます。それであれば、高品質なモデルDに価格差を付けるのは妥当といえます。よって適切な記述です。
ウの「ターゲット・コスティング」は、ターゲット=標的、コスティング=費用、原価計算と考えると、原価から販売価格を設定することと予想できるので、試作品を販売することで価格を決めることとは異なると想定できます。よって不適切と判断できます。
エでの激しい競争が展開されておれば、買い手の影響力は大きい反面、売り手X社の価格への影響力は大きくないと考えられます。よって、「売り手であるX社だけでなく、」という記述がおかしいと気づきます。
オの「コストベース価格設定」は、コスト=原価をベースにしてそこに利益を見込んで価格を設定することだと類推できるので、不適切です。
用語の解説
ターゲット・コスティング(原価企画)とは、原価計画や原価統制などを含む戦略的コスト・マネジメント手法です。市場調査を基に、最初に目標価格を決めて、そこから目標とする利益を差し引いた額を原価とする方法です。