多国籍企業に関する中小企業診断士試験・過去問での設問について、専門用語(用語の解説を参照)を知らなくても常識に基づいて解説します。
企業経営理論 令和5年度 第12問
企業活動のグローバルな展開が進んでいる。企業の国際化に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア C. バートレットと S. ゴシャールによれば、トランスナショナル戦略を追求する多国籍企業の中核となる資産や能力は、主に企業の本国において存在しており、他の国や地域における開発は不可能である。
イ C. バートレットと S. ゴシャールによれば、マルチナショナル企業はグローバル企業に比べて、個々の地域や市場への適応の度合いが高いため、国別の現地法人の自主性や独立性が高いという特徴を有する。
ウ J. ストップフォードと L. ウェルズのモデルによれば、一般的な企業の国際化の進展経緯は、地域別事業部制から製品別事業部制へ移行した後、グローバル・マトリックス組織形成に向かう。
エ R. バーノンは、米国の大企業の海外進出過程を分析し、製品ライフサイクルの進展に伴う発展途上国から先進国への生産拠点移転現象をモデル化した。
正解
イ
解説
ア トランスナショナル戦略(用語の解説参照)のトランスとは、直訳すれば移転するということだから、本社の生産やイノベーションを移転すると推測できます。それにより、他の国や地域における開発は可能になるので、この記述は不適切です。
イ ソニーやキャノンのようなグローバル企業(用語の解説参照)を思い浮かべると、世界を一つの市場とみなし、本社機能を集中させてグローバル展開をしています。これに対し、マルチは複数のという意味から考えると、複数の(各国の)現地企業が複数の現地市場に自律的に開発・製造販売するイメージから、「グローバル企業に比べて、個々の地域や市場への適応の度合いが高いため、国別の現地法人の自主性や独立性が高い」という記述は適切といえます。
ウ グローバル・マトリックス組織形成に向かう際に前段階として、必ず製品別事業部制を採ってから移行する訳ではないので、「地域別事業部制から製品別事業部制へ移行した後」という記述は不適切です。
エ 製品ライフサイクルを考えると、「市場導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」のプロセスを知らなくても、最初の研究開発段階では販売単価が高く、販売数量も少ないことがわかります。製品が売れ出すと、販売数量が増加する段階を経て、低価格での大量生産に移行することになります。そうすると先進国から発展途上国への生産拠点移転現象が起こることになるので、この記述は不適切です。
用語の解説
【多国籍企業の4分類】
C. バートレットと S. ゴシャールは、多国籍企業を以下の4つに分類しています。
①グローバル戦略
グローバルスタンダード戦略とも言います。本社機能がすべての意思決定権をもち、海外拠点の権限は制限されます。 世界の市場を単一とみなし、海外展開したすべての国で標準化した商品・サービスを提供し、スケールメリットにより、グローバルで規模の経済性を追求する形態です。
②マルチナショナル戦略
ローカリゼーション戦略とも言います。
海外展開したすべての国・地域で現地に最適化された事業を行い、現地法人が意思決定権限をもち、本社は緩やかにそれをマネジメントする形態であり、国別の現地法人の自主性や独立性が高いといえます。
③インターナショナル戦略
グローバル戦略とマルチナショナル戦略の中間的な戦略です。
意思決定権限を現地法人にある程度委任しますが、中核となる要素は本社機能に管理しながら、海外現地法人が収集した現地ニーズを反映して、グローバル展開していく戦略です。
④トランスナショナル戦略
グローバル戦略のスケールメリットおよび本社機能による統合、マルチナショナル戦略の現地最適化と現地権限強化、どちらも追及する戦略です。現地の専門性を高めながら、本社との連携を図ります。
自動車産業などがその例で、ほとんどが共通の部品を使用しながら各国・地域の規格に合わせた自動車を製造しています。
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